まだ設計の仕事に携わっていなかった頃、家にあった建築雑誌を心踊らせて眺めていました。モノクロの写真からでも、光りや風の動きが感じられ、その場に自分が入り込み、窓から差し込む光を受けて時を過ごす。自分の身体感覚から乖離したものはそこにはありませんでした。いまでも設計する時は自分がその場に身を置くことを想像しながら創っています。しかし最近は器用さと洗練された中に何か置き去りにされたものがあるように感じています。行きつ戻りつする不器用さを内包した空気や何故か心引かれる力強さはそこには感じられません。次から次へと進んでいく技術、どんどん変わっていく街並。今まで過ぎてきた時間を振り返る時間もなく消耗されていきます。立ち止まり振り返る余裕もない流れのなかに身を浸していると、人間の感覚から遠ざかっていくものを引き戻すようなリアルなものが恋しくなります。